親不孝で子不幸。
敬老の日。
実家まで片道5時間だった道のりは
飛行機を使っても12時間掛かるようになった。
70半ば過ぎた両親にたった一人の孫の顔を見せてあげられるのはあと何回か。
頃合いをみて、孫に電話をかけてもらった。
「もしもし、ばあちゃん? 〇〇だよ。元気?」
私が教えたセリフを棒読みする孫・・・こじらせ息子はコミュニケーションが苦手。
私は洗濯物を干すふりをして聞き耳を立て
母が元パートナーの話題を切り出さないよう祈った。
別れたことはまだ話していない。
彼の地元へ子どもを連れて引っ越す。
でも結婚はしない。一緒にも住まない。
今のアパートの保証人をお願いしたとき、
「彼が何を考えているのかわからんが、まぁ、お前の人生だ。がんばってくれ」
と父は電話口で応援してくれた。
去年の夏、元パートナーが生まれ育ったこの南の地を初めて3人で旅行した。
彼の実家にこじらせ息子と3泊。
彼は長男であり、ご両親、同居するおばあちゃん、家を建て離婚したばかりの次男、近くに住む三男家族に挨拶した。
お母様のエプロンを借りて、一緒に台所にも立った。
こじらせ息子は、飼い猫のチーちゃんがとてもお気に入りだった。
夏休みが短かった私は息子と二人で先に帰り、彼は数日残って友達と飲みに行ったりハローワークで求人票をチェックしていたようだ。
いずれは地元に戻りたいと出会ったころから聞いていた。
転職話がトントン拍子に進み、年明けすぐ遠距離になった。
「オレを信じて待っていて」
まだ入居1年満たない賃貸契約は私の名義に変更。
児童扶養手当は一緒に住み始めたとき当然切っていた。
私の収入だけでは不相応なマンションの家賃。
彼は今まで通り折半するよと言ったが、
地元での新生活を早く安定させ、私たちを呼び寄せてくれるものだと疑わず断った。
彼のところへ遊びに行った1週間後、あっけなく振られた。
子どもの夏休みのタイミングで転校できるよう
でも彼にプレッシャーを与えたくなくて黙って退職届を出し
たっぷりたまった有給消化に入ったばかりだった。
親は心配するだろう。
引っ越しの見送りにきてくれた友達も心配すると思う。
寿退社だねと祝ってくれた元職場の上司や同僚もびっくりするだろう。
子どもを道連れにしてまで振られた男を追いかける惨めな女。
確かに私は、フラれた後やけくそになってこの地で物件を探した。
いやいや、だけどそうじゃないんだよ。
きっと、負けたくなかったんだ!!